子どもの気持ちを大切にするプレパレーション 札幌病院小児科

2019-03-21 ニュース

ぼく、がんばるよ
子どもの気持ちを大切にするプレパレーシヨン
親と一緒で安心 注射も怖くない

 親から離され、泣き叫ぶ子どもを看護師が抑えて点滴や採血をする・・・昔はよくみられた小児科の光景ですが、ここでは違うようです。親も子どもといっしょに処置室に入り、子どもの気持ちを大切にする「プレパレーシヨン」にとりくむ勤医協札幌病院の小児科を訪ねました。

子どもの決心を待つ

 「うでにベルトをまいてキュツとするよ」看護師が指差すタブレット端末のイラストに、子どもが夢中になつています。採血や点滴をする前に、なぜ処置をするのか、どんな手順かをわかりやすく説明し、「うん、わかった。がんばる」と、自分から手を差し出してくれるのを待ちます。
 終わった子どもには、「がんばったね」と、かわいいシールを腕に貼ります。待合室では怯えていた子どもも、得意げです。帰宅後も「やったよ!」と自慢するなど、親からも喜ばれています。

 予防接種のため午前中に来院した10歳の女の子は、処置室で腕をまくりますが、いざ注射しようとすると「怖い!怖い!」と、どうしても決心がつきません。そこでは無理せず、本人が納得し、決意してからまた来てもらうことにしました。その日の夜間診療でようやく予防予防接種した女の子は、「あれ?もう終わったの!痛くないじやん!」と、ホツとしていました。

親といつしよに

 看護主任は、「子どもにとって、親のいない場所でこれから何が起こるのか分からない状況ほど怖いものはありません。できるだけ恐怖心を取り除き、親といつしよにこれからおこなわれる処置に
対して心の準備をする『プレパレーション』というとりくみです」と話します。
 0から2歳の子には人形やおもちやで気をそらせるなど、子どもの様子や理解力にあわせて対応しています。「具合が悪いときに注射することは理解してもらえますが、予防接種はなぜ注射するのかわかりにくいようです。なんとか工夫して説明しています」。

子どもの権利を学ぶ

 十数年前の小児科では、親には待合室で待ってもらい、看護師が子どもを預かって注射や処置をしました。親から離す理由は、近くにいるのに助けてくれない親に対して、子どもが不信感を抱く可能性があることや、しっかりと抑えた方が短時間で済むため、子どもの負担が少ないと考えていたからです。突然親から離される恐怖に子どもは怯えて泣きました。親にとってもカーテンの向こうから聞こえてくる泣き声が心配になり、ストレスになっていました。

 職員の本音としては、子どもを抑える姿を親には見せたくないという思いや、「本当にこれでいいのか」という悩みがありました。

 菊水こども診療所は2005年に「子どもの権利条約」をテーマに学習会を開きました。そこで「プレパレーション」の考え方に出会ったのです。2008年には札幌医科大学の蛾名智子教授を講師に学習会を開きました。「採血時に親が付き添うかどうかは、親にではなく子どもに聞く」「親の近くにいたいという子どもの気持ちを大切にする」。
 看護師たちは今までの看護のあり方を反省し、講演の翌日から保護者も一緒に処置室に入つてもらうようにしました。

親も「安心」

 「もしも親の前で失敗したらどうしよう」と心配する声もありましたが、杞憂でした。採血や注射をする時に親といつしよに子どもとのコミュニケ—ションをとることで一体感が生まれ、親は看護師の行為の一部始終を見届けることに安心し、信頼してくれます。失敗しても「いっしよにがんばろう」と励ましあう関係を築くことができたのです。
 親からは、「わかりやすい言葉で説明してくれるので私も安心できます」「忙しいのに時間をとっていただいて、ありがたい」「こんな細い腕に針を刺すなんて、看護師の苦労がわかりました」と労いの声が寄せられています。看護主任は「子どもが嫌なことに向き合い、自分の力で乗り越え『頑張った』と思える体験によって自己肯定感を引き出すことができると思います。もっとわかりやすく伝
えられるように工夫していきたい」と話します。