性、もっと幸せに

2022-01-04 ニュース

中・高生に講演活動する 勤医協札幌病院 産婦人科医師 長島 香さん

  勤医協札幌病院の長島香医師は、札幌市の中学・高校で性教育講演をしています。講演をしようと思つた理由や講演内容、社会の現状について思うこと、職場での働きかけについて聞きました。(北海道民医連新聞 2022年1月1日号)

Q講演を始めるきっかけは何ですか?

A子どもの頃から男女は 不平等だと思っていました。男の子が積極的な行動をとれば励ましてもらえるのに、女の子にはブレーキがかけられていると感じました。保育園に通っていた頃、大好きだった祖母が孫の私を友人に紹介する際 「この子はおちんちんを忘れて生まれてきたのですよ」と話していたことを今でも覚えています。子どもなりにショックでした。でもこれを忘れずに今も活動しているので、ショックは無駄ではなかったのです。
「『男は男らしく、女は女らしく』という言葉にしばられることはない」と大人から聞きたかったので、私が話そうと思いました。

Q性教育の講演内容は?

Aまず、「人間の関係性」について話します。恋愛関係にある2人の間に上下関係があると、上の立場になった人から様々な暴力(=DV)が起きます。これを取り締まる法律はありません。男らしい男の子と女らしい女の子が付き合うと男の子が女の子を自分の下において束縛することはよく起きることです。起き得る暴力のパターンを話して、どんなに仲良しと思っても一人ひとりが違う感覚や意見を持っていること、対等と尊重の気持ちがあれば暴力関係を防ぐことができると話しています。
生徒から、「付き合う人と暴力関係になりたくない」という感想が多いので、DV発生を予防することになると思います。
次に、「すべての性行動には性的同意が必要であることを話します。握手やハグだってしたくないことや、自分が同意してないことには「N0」を言うように話しています。児童性虐待防止の観点からも大切な話です。性的同意のない性行動をされたら、それは性暴力です。電車の中の痴漢という性暴力は性犯罪になります。
ところが、カップル間や夫婦間で同意のないセックスは立件してもらえない。性的同意がない性行動に刑法が適応された国では夫婦間でも性犯罪となりますが日本は遅れています。「2人の間の性行動は、『どちらかが嫌ならストップ』がルール」と話しています。暴力の加害者がいなければ被害者は出ません。
他には、妊娠のしくみと避妊方法、妊娠したら大人に相談してほしいこと。性行為感染症の症状や予防性の多様性について話します。「体の性、心の性、好きになる性など、いろいろなバリエーションがあり、100%の女や100%の男はいない。自分には性が決められないと思う人もいる。今までとは違う性に変化する人がいる。性的少数派と多数派ではなくグラデーションのようにみんなそれぞれの性がある」と話しています。

Q社会の現状について思うことはありますか?

Aこのインタビユー記事を読んでいるあなたは大人だと思いますが、ここまでの内容を読んで「知っている」と思いましたか?おそらく「へー、そんなこと知らなかった」と思ったのではないでしょうか。「性と人権」という視点での性教育は大切だけれど、ほとんどの人が学ぶことなく大人になっています。
日本は男尊女卑が強い先進国です。男女格差指数(ジェンダーギャップ指数)2020年は世界156か国中の120位てす。この格差をなくそうとすることが「ジェンダー平等な社会」として、SDGs (持続可能な開発目標)のひとつになっています。想像してください。暴力や束縛のない恋愛関係だったらとてもいいと思いませんか。仕事から帰ってきて夕ご飯づくりと後片付け、洗濯しているのは女性の私、夫は自分の部屋でビールを飲んでいる。夫も疲れているだろうが私も同じ…。夫婦で仕事をしているのに家事・育児分担は女性が多すぎる現実があります。総務省の調査では乳幼児のいない共働き夫婦1日家事時間は妻が3時間28分、夫は12分で17分の1。乳幼児のいる家庭だと妻6時間54分、夫68分です。こんな差がありながら、夫から「好きだよ」と言われても「言葉より行動で示せ!」と言いたくなるだろうと思うのは私だけでしようか。
世界をみると家事育児時間差は妻が夫の2倍というところが多く、日本の男性の短さが注目されています。この背景には男性の時間外長時間労働があることがわかっています。家事・育児をしたくても会社から帰れない。上司が家事や育児は男の仕事じやないと言う。これは「パパハラスメント」です。「ジェンダー平等」のポスターを貼っている職場にもないでしようか。
日勤なら17時には仕事を終了して帰宅するのが基本です。今、若者に人気のある企業はこういう企業です。せっかく父親になったのだから育児をしたいと思っているし、妻と家事を分担する事が当たり前と考える若者が増えています。少しずつですが意識は変わっています。

Q民医連の職場に働きかけたいことはありますか?

A民医連は憲法を大事に考える組織です。「人権カフェ」でジェンダー平等のテーマがありました。仕事は17時で終了。できなくてもなるべく早く帰ってもらう意識が大切です。私がいつも気になっている「言葉」について話します。それは「ご主人」という言葉です。外線で夫から電話がかかると事務の方が「ご主人から電話です」とつないでくれます。私は「夫の家来や犬じやない」と思いながら電話に出ます。男性は妻から電話がかかったときに「ご主人から電話」と言われるとムッとしないでしょぅか?これを想像することが「ジェンダー平等」につながります。
私は、「夫さん」と言いますが「パートナー」が適切ですね。この言葉は性別を問わない、対等なイメージがあります。少しずつでも「パートナー」呼称を拡げたいです。まずは言葉から。もし賛同されたら、あなたも「パートナー」を拡げていただけると嬉しいです。